★第2回公判

明らかになった検察側証拠の実態

禰屋裁判・第2回公判が10月25日ありました。県内外から140名以上の支援者が岡山地裁に駆けつけました。

公判では一人目、検察側証人として瑕疵担保保険会社の社員が法廷にたちました。瑕疵担保保険とは、建設した住宅に修理が必要となった場合の建設会社の資力を担保するための保険で、検察の要請で元会員建設会社の瑕疵担保保険の資料を作成した証人です。

しかし尋問で明らかになったのは保険会社が作成した資料では、保険開始日が必ずしも実際の建物引き渡し日になっていないことでした。これでは正確性に欠けるもので法人税法違反を立証できる証拠にはなりません。

また二人目の証人である元国税査察官の尋問では、事件に関係ない民商会員名簿など手当たり次第に押収した当時の民商事務所への強制調査の状況が、弁護団の鋭い質問により、浮き彫りになりました。公判後の報告集会で禰屋町子さんは「嘘はまことに勝てない、真実は沈まない私達は諦めない。現在、要請署名は29万2000筆になっています。30万筆まであと8000筆、御支援よろしくお願いします。」と訴えました。

次回、第3回(11月29日)公判も検察側証人尋問です。

裁判所要請にも御支援を

毎月2回、裁判所に要請行動と地裁前の宣伝活動を行っています。 11月は2日と15日、両日とも10時30分より要請行動(裁判所へ署名と要請文書を提出します)、その後、地裁前で事件支援を訴える宣伝活動を行います。是非こちらにもご参加下さい

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倉敷民主商工会 事務局
須増和悦

★禰屋さんからのメッセージ

 日頃より、ご支援をいただきありがとうございます。

 「10年ひと昔」という言葉があります。2014年1月21日に元民商会員の建設会社の脱税をほう助し、税理士法に違反したとして逮捕され428日間勾留されました。でも、普通のおばちゃんは、仲間や家族そして弁護団に恵まれています。

 勾留中、全国の仲間が、励ましの寄せ書きをくれました。面会に弁護士さんが読み上げてくれました。検察と裁判所は長期勾留して精神的に追い込めば自白するのではないかと思っていたのでしょう。

 検察は私を起訴してから、9年後に訴因変更(起訴の内容の変更)をしてきました。怒りを覚えます。裁判でしっかり述べたいと思います。

 7月4日に裁判が開かれます。裁判所へ私たちの声を届けるため、署名のご協力をお願いします。署名は27万人が集まっています。署名の目標は30万人です。あと3万人分です。皆さんの応援を背に裁判に臨みたいと思います。ご協力をお願いします。私は未来を信じて、頑張っています。私の人生を後悔したくないので、未来を信じて、これからも頑張ります。

ホームページ禰屋裁判を支える会等でお知らせします。

                     倉敷民商事務局員 禰屋町子

★第1回公判冒頭の弁護団意見

平成30年(わ)第50号 法人税法違反幇助被告事件及び税理士法違反被告事件
被告人 禰屋町子

   差戻審開始にあたっての意見書*
   *以下の意見書は公判前に入手したものですが、法廷で清水弁護士が実際に使用した言葉をできるだけ反映させました。

                                202374日岡山地方裁判所 第1刑事係 御中

                            主任弁護人 清水 善朗

 第1 長期裁判の責任は検察・裁判所にある

1 岡山地方裁判所が言い渡した有罪判決について、広島高等裁判所岡山支部が判決の主要な証拠として事実認定に使用した査察官報告書の証拠能力を否定して破棄し、差し戻してから5年半が経過した。

 この間、検察官がどのような形で立証をやり直すかを検討するために三者間の打ち合わせが行われ公判が開かれることはなかった。禰屋さんは三者打ち合わせに立ち会いを希望した。しかし、裁判所はこれを許さなかった。禰屋さんは裁判を受ける権利を棚ざらしにされたまま5年半の間放っておかれたと言うことである。

 その責任は、検察と裁判所にある。

2 弁護団は、争点を整理して充実した心理を行う貯めに公判前整理手続きが必要と主張していた。しかし、中田幹人裁判長は弁護団の主張を聞き入れようとしなかった。

 検察は、法人税法違反につき、査察の中心となっていた木嶋輝美査察官の供述を柱に立証するとの方針をとり、査察官報告書を証拠として申請した。これに対し、弁護人は当然のことながら不同意とし、中田コート*は査察官報告書を証拠として採用しなかった。
                   *コート(court)は、法廷、公判、法廷の場、あるいは裁判官を意味する。
 そこで検察は、査察官報告書を作成した木嶋輝美査察官を証人として申請し、中田コートはこれを認めて木嶋証言が実施された。

 しかし、木嶋証言だけで法人税法違反を立証することはできなかった。

 そこで、中田裁判長の後任として裁判長となった江見健一裁判長は検察官に査察官報告書を鑑定書と扱うことを示唆し、中山大輔検察官は江見裁判長が示唆した泥船に乗って査察官報告書を鑑定書として申請し、江見コートは査察官報告書の筋書きに沿った有罪判決を言い渡した。

 広島高裁岡山支部は、査察官報告書が鑑定書あるいは鑑定書に準じる証拠であることを否定し、江見コートの判決を破棄したのである。

3 高裁判決は「差戻し後の一審においては、まず適切な争点整理が行われるべきで在り、検察官は真に立証すべき事実は何であるかと言うことを吟味してその主張を具体的に明らかにすべきである。」としている。

 弁護団は税務訴訟においては、伝票、契約書、出入金記録等の生の証拠を積み上げる形で立証すべきであると主張し、公判前整理手続を要求していた。中田コートが弁護人の主張を受け入れることなく検察の立証計画を認め、さらには江見裁判長が検察が立証できていなかった法人税法違反を無罪とすることなく、査察官報告書を鑑定書として扱うことを示唆し、検察がこの泥船に乗ってしまったことが、5年半の空転、公訴提起から9年の長期裁判となった原因である。

 5年半の空転、公訴提起から9年の長期裁判となった責任は検察と裁判所にある。

4 差戻後に明らかになったこと

 差戻から5年半の空転の原因が、検察が自ら証拠を検討することを怠り、査察官報告書により有罪立証できるとの誤った判断をもとに禰屋さんを起訴したことにあることが明らかになった。

 検察が法人税法違反の立証に使おうとした査察官報告書が出そろったのが2014年2月4日、2月7日には広島国税局が五輪建設を法人税法違反で告発し、禰屋さんが法人税法違反で公訴提起されたのが3日後の2月10日である。

 検察が膨大な証拠資料を検討する時間はないし、検察が査察官報告書の記載内容を検証するだけの時間も無かった。

 通常検察は証拠を検討し、有罪を立証できると確信できた場合に公訴を提起する。99%を上回る我が国の有罪率はこのような検察実務に支えられている。しかし、本件では検察は証拠の検討を怠っている。

 法人税法違反を皮切りに倉敷民商事務局を身柄拘束して捜査・起訴して弾圧するという筋書きから何としても起訴する必要があった。他方、身柄拘束されることなく、パソコン等の事業に不可欠な物の応酬を差し控えてやるという飴を与えられたこともあって五輪芙美子や五輪幸夫が査察官報告書が作り上げた脱税ストーリーを認めていた、即ち正犯が有罪を認めているという事情から禰屋さんの有罪をできると軽率に判断したものと考えられる。

 禰屋さんを起訴した検察官が証拠を精査することなく、査察官報告書に乗って起訴したことから、差戻後に本件を担当することになった検察官は初めて独自に証拠を検討して分析し立証計画を立てることになった。そのために長い時間を要した。さらに、弁護人が膨大な量の証拠をコピーし、あるいは撮影して証拠の開示を受け、これを検討した上で検察の立証計画に意見を述べるのにも時間を必要とした。そのために5年半もの期間を要することになったのである。

5 弁護団は審理の当初から公判前整理手続を求めていた。中田コートがこれを受け入れていれば、あるべき審理が行われていたはずである。江見健一裁判長が査察官報告書を鑑定書として烏買うことを示唆し、中山大輔検事がこの泥船に乗っていなければ、破棄差戻しとその後の5年半は無かった筈である。

 公訴提起から9年の長期裁判となった責任は検察と裁判所にある。

 憲法第37条第一項が禰屋さんに保障した公平な裁判所による迅速な公開裁判を受ける権利が侵害されているというべきである。

 弁護人や禰屋さんが主張し続けたように証拠も無いのに公訴提起したことが明らかになったということである。検察は公訴を取り消すべきである。

 

第2 法人税法違反幇助・税理士法違反の起訴は公訴権の濫用

1 五輪建設関連の捜索差押え

(1) 2013(平成25)年521日、広島国税局収税官吏(以下「収税官吏」)が大挙して岡山県倉敷市新田1294にある倉敷民主商工会(以下「倉敷民商」)事務所にやって来て捜索・差押えを行った。その際査察官が差し押さえた物件は差押目録に記載されている。

 この捜索・差押は倉敷民商の会員であった五輪建設株式会社に係る法人税法違反の嫌疑に限定されていた。

 ところが、収税官吏は五輪建設に係る法人税法違反の嫌疑と関係のない倉敷民商が所有ないし保有する事務局員の手帳、スケジュール帳、会議のレジュメや資料、事務所に相談に来た会員の相談記録、事務局員の給与台帳、会費の領収書控え、全商連及び県連から届いた資料、会員の確定申告書控え、さらには事務所にあった全てのパソコンまでも差押えて持ち帰った。

 また、捜索差押えの最中において収税官吏は法的根拠がないのにもかかわらず、倉敷民商事務局員が外部と連絡することを禁じ、捜索・差押に立ち会った小原事務局長所有の携帯電話に連絡が入った際、「砂村」と名乗る査察官がこれを取り上げ通話を妨害するといったことまで行った。

(2) 2014(平成26)年121日、倉敷警察署、岡山地方検察庁は、税理士法違反を被疑事実として倉敷民商事務所、事務局長小原淳、事務局員の禰屋町子と須増和悦の自宅などに対する捜索差押えを行った。

 この捜索差押えに引き続いて、禰屋さんの法人税違反による逮捕勾留が行われた。

 121日の捜索差押は、禰屋さんについて法人税法および税理士法違反の容疑で行われたものであるが、広島国税局が五輪建設を法人税法違反で告発したのは27日のことであり、禰屋さんが法人税法違反で公訴提起されたのは210日のことであった。告発に先立って法人税法違反の容疑で捜索差押がなされ、告発を受けて公訴提起がなされたということである。

 続いて35日禰屋町子、小原淳、須増和悦の倉敷民商事務局3名が税理士法違反で公訴提起がなされた。

 121日の捜索差押えとそれに続いて行われた身柄拘束は、確定申告の時期に重なっている。倉敷民商は毎年確定申告の時期に合わせて重税反対統一行動を行ってきたという経緯があり広島国税局も倉敷税務署もこれを知っていた。

 さらにいえば、2014(平成26)年4月の消費税増税を目前にした時期でもあった。

(3) 他方、一連の強制捜査の切っ掛けとなり、検察の立てた筋書からすれば違法性の強いはずの、五輪建設による法人税法違反(脱税)の実行行為者であり、脱税による利益を得る立場にある五輪建設の代表者五輪幸男とその妻であり会社役員でもある五輪芙美子は身柄拘束さえされていない。

 倉敷民商からすべてのパソコンを押収したのと対照的に五輪建設のパソコンは押収せず、そのデータと印刷物を提出させただけであった。

2 法人税違反の筋書きと公訴提起

(1) 差し押さえた資料により広島国税局の木嶋輝美を中心とする査察官は、20135月の捜索差押えによって入手した資料をもとにして五輪建設が脱税していたとするストーリーを構成していった。①売上げを翌期以降に繰り延べる、②棚卸高を過少に申告する、③原価の水増しによって過少申告したという筋書きであった。この筋書きは、五輪建設で経理を担当していた五輪芙美子らの認識と食い違うものであったが、査察官は、身柄拘束を控える、パソコンや保存データそのものの差押えは控えてやる、禰屋が首謀したことにしてやるなどの飴を与えることによって五輪芙美子等に査察官が作り上げた筋書きを認めさせた。

(2) 木嶋等が作り上げた筋書きに依拠した法人税法違反の公訴提起

 五輪建設にはいわゆる「たまり」すなわち逋脱によって形成された財産は無かった。打ち上げの繰り延べはあったとしても翌期以降に申告がなされるし、棚卸の過少申告についても翌期以降の利益が増えることになる。したがって、仮に査察官のストーリーのとおりであったとしても起訴されることはない事案であった。

 広島国税局査察官だった木嶋輝美は、国税局としては税理士法違反として告訴する考えを持っていなかったと証言している。

 121日法人税法違反共同正犯の容疑で捜索差押えを実行した後の27日国税局が五輪建設を告発し、210日禰屋さんを法人税法違反幇助で公訴提起したという経過からも、検察が弾圧の意図を持っていたことをうかがうことができる。

 検察は何としても五輪建設を法人税法違反で、禰屋さんを法人税法違反幇助で公訴提起し、倉敷民商事務局3人を税理士法違反で公訴提起したかったということである。

(3) 広島高等裁判所岡山支部が破棄差し戻しした後の検察の対応からも、法人税法違反による公訴提起は、検察が証拠を吟味して公訴事実立証の見通しを持ったうえでなされたものでなかったことが明らかである。

 通常検察は、証拠を検討し公訴事実を立証できる見通しを立てたうえで公訴を提起する。

 しかし、広島国税局査察官木嶋輝美らが五輪建設の法人税法違反のストーリーを作り、五輪建設関係者の自白を取り付けたうえで査察官報告書を完成させたのは20142月のことである。このことは、検察が法人税法違反の事実を立証するために使った査察官報告書の作成日付が2014(平成26)年24日に集中していることから明らかである。24日査察官報告書が出そろい、27日に広島国税局が五輪建設を法人税法違反で告発し、検察が五輪建設と禰屋さんを法人税法違反で公訴提起したのが210日である。

 210日の起訴までに検察が独自に証拠を検討し公訴事実を立証できるとの見通しをたてる時間的余裕は無かったことは明らかである。

 結局検察は、五輪建設関係者が査察官の作ったストーリーを認めていたことをよいことに、証拠価値のない査察官報告書と査察官の供述によって公訴事実を立証するという見切り発車によって五輪建設と禰屋町子さんを法人税法違反により提訴したということである。

 このような経過から、検察が自ら証拠を検討したうえで公訴事実を立証できるとの見通しを立てることなく、もっぱら査察官報告書に依拠して法人税法違反の公訴を提起したことが明らかである。

 無理筋の公訴提起という点からも、弾圧の意図が明らかである。

3 弾圧目的の捜査と公訴提起

(1) 本件は、本来起訴されるような事案で無いことは以下に述べるとおりである。

 五輪建設には、「所得減少の意図」はなく、法人税法違反は成立しないことは既に主張しているとおりであるが、仮に、五輪建設に、過少申告とされる行為があったとしても、本件は修正申告を勧められることはあっても、刑事事件として起訴されるような事案ではないことが明らかである。

 申告納税制度の下においては、個人や法人は、自主的に申告をすることで、納税の義務を果たすことになる。その申告が正しく行われているのかをチェックするために、税務署による調査等が行われる。国税庁のインターネットで公開されている資料(国税庁事務年報第64回平成26年度 22ページ)によると、平成26年に法人税の実地調査は95,111件行われている。

 調査は税務職員が法律に規定される質問検査権に基づいて実施する任意の調査である。調査の結果、申告内容に間違いがなかった場合、あるいは間違いがあったとしても指導にとどめられた場合は、申告内容が是認される。

 また、実地調査の結果、更正処分等をすべきと認められる場合には、納税義務者等に対し、調査の結果(更正処分等をすべきと認めた額及びその理由)を説明する。その際、税務職員は、修正申告ないしは期限後申告(無申告の場合)を勧めることができるとされ、実際には、大多数が修正申告によって終結している。納税義務者等が修正申告を行わない場合は、税務署長の判断により、更正処分(無申告の場合は決定処分)が行われる。

 国税庁の資料(国税庁事務年報第64回平成26年度 22ページ)によると、平成26年度の法人税の更正・決定等は69,676件となっている。(修正申告件数も含まれている。)

 修正申告や更正処分がなされた場合、延滞税や各種加算税という付帯税が負荷される。特に、納税者の申告の誤りが、事実の全部または一部を隠蔽または仮装したことに基づいてなされたものである場合は、重加算税(35%)が課される。平成26年度の法人税調査において、重加算税の対象なった不正申告件数は、一万8,548件と公表されている。(国税庁事務年報第64回平成26年度 22ページ)法人税の実地調査件数の約20%弱である。

 収税官吏である国税査察官は、「脱税額が多額で、手口が悪質と認められる等社会的非難に価する」(国税庁の文書より)者を選定し、査察調査を行う。査察と国税の賦課徴収を目的とした手続きで行われる調査等とは異なり、脱税の事実を解明し、刑事告発を目的とした手続きで、国税犯則取締法み基づく犯則調査(査察調査)の事である。

 いわゆる査察調査は、収税官吏である国税査察官が行い、犯則嫌疑者(租税犯罪の嫌疑を受けて調査の対象になっている自然人または法人)や参考人に対して、質問・検査・領置などの任意捜査をするほか、裁判官の許可(令状)を得て、臨検(検証に相当する処分)、捜索・差押えなどの強制調査を行う。

 査察は、調査の後6割程度を検察官に告発し、その後刑事事件として起訴されるが、国税庁の資料によると、法人税関係で、起訴され刑事事件(逋脱)になったものは、平成26年度は66件にすぎない。(国税庁長官官房規格化 税務統計 平成26年度)

 平成26年度に、税務署が税の誤り(不正を含む)を指摘した約7万件のうち刑事事件になったのは、わずか0.09%(66件)しかないのである。

 逋脱半の犯罪の成立要件は、「偽りその他の不正な行為」により、「故意」に「税を免れた」こととなっている。

 しかし、実務においては、「重加算税が賦課される要件」である「隠蔽または仮装」より狭い概念であると考えられ、運用されているというのが、実務の常識である。

 また統計上も、重加算税が課せられる件数(平成26年度18,548件)に比べ、刑事事件の件数(66件)は、遙かに少ない。

 本件は、たとえ検察主張のとおり税の誤りがあったとしても、「悪質」なものではない。「悪質性」を示すものとしては、「たまり」の存在は不可欠であると考えられている。

 「たまり」とは、税務関係者の使う用語で、いわゆる隠し財産・簿外資産のことである。たとえば、脱税で不正に蓄財された資産を、社長や親族等の個人名義に移すとか、高級外車の購入、競馬等の遊興費、海外資産、金地金等に変えるとか(国税庁の公開資料による)されている場合にそれらを「たまり」という。

 本件では、五輪建設株式会社の資産は、すべて会社内部にそのままとどまっていることは、査察証言からも明らかである。本件では、いわゆる「たまり」はないのである。

 五輪の資産は会社内部にとどまり、仮に該当年度に売上計上されていないとして仮に「脱税」と言うにしても、少なくとも悪質なものではない。修正申告の勧めや更正処分の対象になる可能性は否定しないが、「通常は重加算税の賦課されるようなケースでもない」し、「ましてや、刑事事件になるようなことではない」というのが、多くの元税務署職員や税理士等の認識である。

 なぜ本件が刑事事件となり、しかも、幇助犯とされる禰屋さんが身柄拘束され、起訴されたのか不思議というほかない。幇助での起訴はさらに少なく、多額の報酬を得ているケースがほとんどである。

 大企業が、何千億もの課税漏れを指摘されても、『見解の相違がああたが、修正申告した」として、修正申告で済ませているのは、新聞等でたびたび報道されている。0.09%の悪質なものだけが起訴されている。本件公訴提起は、弾圧目的であったことは明らかである。

 禰屋さんは五輪建設の外でも税理士法違反とされているが、五輪建設を含めて確定申告をサポートしたのであり、中小業者の互助組織としての倉敷民商事務局として政党名業務を遂行したものである。

 しかもその内容は適正であった。

 にもかかわらず、小原さん、須増さん、禰屋さんの事務局全員が長期間身柄を拘束された。禰屋さんにいたっては428日間者長期に及んだ。加えて倉敷民商の業務遂行に不可欠なパソコンのすべてを押収され、倉敷民商の業務は著しく阻害された。

 また、捜査関係者が倉敷民商会員を訪問して聞き込みをしたことにより、多数の会員が脱会してしまった。

(2) 他方、青色申告会では、事業者の確定申告を支援するという禰屋さんらが行ってきたのと同様の活動が行われている。

 青色申告会の活動は国税庁長官、全国青色申告会総連合会長、日税連会長による「三者協定」に基づいて行われてきた。この「三者協定」は、青色申告会が国税庁による民商弾圧によって民商を離れた中小業者の受け皿となろうとしたことに、税理士会が職域を奪われるとの理由で反発したという経緯から、国税庁が音頭を取って成立したものである。「三者協定」は、「全国青色申告会総連合および日本税理士会連合会は、その組織を通じ青色申告会の機能及び税理士の職能に応じて相協力し、その他の実情二即した方法により、小企業納税者に対する記帳、決算から申告に至るまでの一貫した指導を可及的すみやかに実施する。」と青色申告会と税理士会の強力関係について規定したうえで、「国税庁は、上記の施策に対しできる限りの支援、協力を行う。」と国税庁の支援と協力について定めている。

 国税庁のお墨付きで税務署所在地ごとに立ち上げられた青色申告会では確定申告に先立って実施される会合において青色申告会の職員が会員の確定申告の支援を行っている。税理士が関与している体裁をとるために税理士が立ち会っているもののその税理士が参加者の確定申告を支援することはない。

 このように青色申告会において禰屋さんらが行ったと同様の確定申告支援が行われていることからも、禰屋さんらの行為に異方性が認められないこと、にもかかわらず税理士法違反で公租提起したことが明らかである。

(3) 操作の手法にも重大な問題がある

 広島国税局が2013(平成25)年521日五輪建設の法人税法違反と関係の無い文書等を倉敷民商から差し押さえたこと、法人税法違反の本犯である五輪建設についてはパソコンの差押えをせず、その社長夫婦の身柄拘束もしないという便宜を図ることによって、査察官・警察・検察の作り上げたストーリーを認めさせ、それを手掛かりとして禰屋・小原・須増さんら3人を起訴したものであり、中小企業者の営業と生活を守る、その活動一環として会員に対する乱暴な税務調査から会員を守るために調査に立ち会うなどの活動を行ってきた倉敷民商とその戦闘似たって活動してきた3人の事務局員の活動を妨害する目的で行われた公訴提起であることはこれまで述べてきたとおりである。

 (4) 以上、本件で問題となっている行為には違法性は無い

 にもかかららず、違法に収集した証拠を使い、査察官が作り上げた法人税法違反のストーリーを身柄拘束をしない、業務に配慮してパソ音などの差押えをしないという便宜を与えて五輪建設関係者に認めさせたうえで法人税法違反で控訴を提起し、さらに青色申告会において税理士資格を有しない者が税務書類を作成していることを知りながら放置する一方で差別的に事務局員3人を税理士法違反で公訴提起されたものである。公訴提起に重大な違法があることが明らかである。

4 民商に対する弾圧の歴史

 第2次世界大戦直後、過酷な重税が国民に押し付けられるなかで納税者の権利を確立し、自営業者の「営業」と「生活」と「権利」を守ることを目的として民商運動は生まれた。

 立入権を含めた税務職員による質問検査権の強化、納税者全員の記帳義務、資料提出義務違反に対する過怠税、特定職業人(医師・弁護士等)の守秘義務の会場等を狙った国税通則法に反対し、納税者の権利を無視する税務調査を阻止する活動を行ってきた。経済的弱者ほど負担の重く中小業者の経営を圧迫する消費税に反対する等増税反対の活動も続けてきた。

 高金利による被害を撲滅するクレジットサラ金運動も担ってきた。消費者問題に取り組む弁護士も巻き込んだクレジットサラ金運動の成果として上限金利の規制が実現したことは記憶に新しいところである。

 現在もこれまで消費税を納める必要の無かった中小事業者に消費税納付を間接的に強制することになるインボイス制度の導入に反対する運動を行っている。

 このような民商運動を敵視した国家権力が、公務執行妨害税法違反(質問夫答弁・検査拒否)、税理士法違反などの刑事事件、推計による報復的な課税処分を強行するなどして弾圧してきたという歴史がある。

 国税庁長官、全国青色申告会総連合会会長と、日税連会長の三者の協定により青色申告会に確定申告を支援させることで民商の影響力を減殺することも行われてきた。

 このような民商運動の実態と、弾圧の歴史に照らし、消費税増税と確定四国に先立って行われた禰屋さんを始めとする3人の民商事務局の税理士法違反による公訴提起が、倉敷民商の弱体化を狙った弾圧であることが明らかである。

 

 公訴権濫用を理由として公訴棄却すべきについては、後ほど、岡邑弁護士が述べる

 

第3 審理を一からやり直すべきである

 差戻審の審理を更新に準じた手続きで行うことができる法律上の明文規定は無い。そもそも本件は否認事件であるから、手続きは厳格に行うべきである。

 もともと法人税法違反幇助での検察官立証の柱であった査察官報告書等がことごとく証拠能力を否定され、検察官は代替証拠の請求を余儀なくされた。このような事態に陥った以上、証拠調べについてはすべてやり直すべきである。

 弁護人の証拠調請求予定の白取教授の意見書にもあるように、検察官の立証計画の大部分が変更された以上、尚古斎比についても再検討すべきである(この点については、公刊物である法律時報92巻第5号1記載の白取祐司『倉敷民商事件における手続き法上の論点』116頁にも同様の記述がある)。